アイちやんとの出会い             


           わが家には、6歳になるメス猫がいる。  
名前はアイちゃん
 ”愛ちゃん”または”EIYちゃん”と書く。
出会ったのは5年前、成人の日の夕方だった。

♪風が足元を 通り過ぎて行く…♪
覚えたての『アメリカ橋』を夫と口ずさみながら、
犬の散歩をしているところへ、
白い猫が近寄ってきた。
やせ細った体にどこか幼さの残る子猫だった。

数メートル先は大通りで、車が激しく行き交っている。
夫が子猫を抱き上げた瞬間、
『アッ!目がない!』と叫んだ。
『連れて帰ろう!』
意見はすぐに一致した。
その頃
我が家には、犬2匹、猫一匹がいた。
元気な野良なら、
見て見ぬ振りをしていたい。
が、この子は・・・
夫が防寒コートのふところに入れ、
家へ連れて帰った。

アイちゃんの目には、
薄赤い涙が止めど無く溢れ出る。
ティッシュペーパーで拭き拭き獣医さんへ連れて行った。
もしかしたら見えるようになるのでは…?
期待しながら診断を待っていた。
”眼球が流れ出してありません…”
望みはもろくも消え去ってしまった。

アイちゃんは声も出ないのか一言も泣かない。
つらい過去があっただろうに、語ることもできない。
せめてこれから、精一杯の愛情をそそいでやろう…。
そんな想いを込めた”愛・と言う名前だった。

アイちゃんの”カン”は素晴らしく冴え、
アッ!と言う間に家の中の様子を理解した。
トイレ・水入れ・餌場…、ほとんど迷うこともなく、
先輩の猫や犬とも難なく付き合えるいい子だった。
心配するほどのことは無くホッ!とした。
ところが、
1週間くらい過ぎた日のこと、
激しい発作を一晩に3度も繰り返した。
バタバタと床に体を叩きつけ、おもらしをしながら泡を吹く。
声を出したことも無い喉の奥から、
息を吐き尽くすような叫び声をあげた。
このまま死んでしまうのでは…
言いようの無い不安が襲った。
”アイちゃん!アイちゃん!”
夫と私は、必死で声をかけ、
見守ることしかできなかった。

アイちゃんに、これほど苦しみを味あわせるなんて、
”この世に神様なんているもんか!”

恨みごとを言わずにはいられなかった。
その日から、朝夕2回の、
抗痙攣剤の薬は欠かせなくなった。


そして今、
行き場所のない猫が6匹に増えた。

体の弱いムーちゃんは、アイちゃんの大の仲良しで、
お昼寝も遊ぶ時も、いつも一緒。
おもちゃの匂いをかぎ、鈴の音を頼りに遊んでいる。
ベランダから外を眺めているときは、
きっと心の目が見えているのだろう。

アイちゃんの苦手は高い所で、
平気で登っていくが、よく落ちる。
何度も何度も繰り返した末に、
おしりから下りる方法をマスターした。

長年の夢だったワンニャンルームもこのほど完成。
かわいいペット達を、安心して見守ってやれる
”動物王国”になった。

”風が足元を 通り過ぎて行く・・・♪”
テレビから、山川豊の歌が流れる。
実はほろ苦い恋の歌…だが、
聞くたびに
アイちゃんと出会ったあの日がよみがえってくる。
 
 
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